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海外から帰国した人がかかる落とし穴


写真:草で作ったマリで遊ぶブータンの子どもたち・Bhutan2016

最近、海外ボランティア(青年海外協力隊)で2年間活動して帰国した方からメールをもらった。

「これからどう生きていけばいいのか迷っています。相談にのってください」と。

協力隊の後輩でもあるし、友人の友人でもあったので、彼と会って話を聞いてみることに。

彼の話を聞けば聞くほど、昔の自分を見ているようだった。

今どんな心境なのか、どんなことで不安を感じているのか・・・手に取るようにわかった。

ぼくはこれまで、彼だけでなく、何人かの海外ボランティア経験者、世界を長い間旅してきた人から相談を受けたことがある。

彼らは、海外で素晴らしい経験をしてきたのだけど、日本の生活に葛藤し、悩み、不安をかかえていた。

何人かの相談を聞いて、ぼくはすべての人に共通するものを見つけた。それはかつてぼく自身もはまってしまった病でもあった。

海外経験者が陥りやすい落とし穴をまとめてみた。

落とし穴①特別な人間だと勘違い

海外で活動することの特権は「日本人」というアイデンティティだ。

日本で住んでいるとき、「私は日本人だ」というアイデンティティは透明になっている。

しかし、海外にいくと日本人は自分だけ、レア人間に簡単になれる。

海外では日本人ってだけでちやほやしてくれる国が多いし、興味をもってくれる。

日本人はお金持ち、日本人女性は優しいってイメージをもつ人多い。

日本では異性に見向きもされなかった人が、海外に出て人格が変わったように彼氏彼女をつくって遊ぶ人もたくさん見た。大学デビューって言葉をよく聞くけど、これは海外デビューだ!

また、海外へ出ると達成感のハードルがかなり低い。

つまり達成感を容易に得られる。

日本から出ない人は、海外を旅する人や海外で働く人を「すごいな〜」って思うかもしれないけど、ぼくが思うに日本で何かをするよりもはるかに楽なことが多い。

特に青年海外協力隊はJICAという大きな組織の後ろ盾があるものだから、最初から信頼もあるしある程度の資金もある。

日本では考えられない大きなプロジェクトをしたり、イベントの開催もできてしまう。

だから中には「おれは救済者だぞ!」と勘違いしてしまう人もいる。

旅や買い物でも言葉の壁や文化の壁がある分、ほんのちょっとのことでも「できた!おれってできる!」って感じてしまう。

日本では努力しても努力しても得られる達成感はほんのちょっとなのに、海外では毎日達成感を得ることができる。

海外でハードルの低い達成感を積み重ねると、日本に帰国後ギャップに苦しむことになる。思い通りにならないことが多く充実感が得られない。

日本人という特別なアイデンティティもなくなり、普通の何もない人に逆戻りだ。

日本に帰ってきて「自分はすごいはず・・・。海外ではあれだけできていたのに!なぜだ!?」となっている人がけっこういるのだ。

落とし穴②海外での経験を生かしたいと思う

海外から帰国後、その経験を生かした職につきたいとほとんどの人が思うだろう。

同世代の人たちは、社会に揉まれ一歩一歩キャリアを積み重ねていた。彼らに追いつくためにも海外での活動を無駄にするわけにはいかない。

しかし実際には、日本の社会ではこの海外での経験を生かす場がほとんどない。

2020年東京オリンピック開催が決まり、少しずつグローバルな流れにはなってきているが、それでもまだまだ海外経験を生かす場面は稀だ。

何よりも、多くの日本人は海外に興味をもっていない。

ほとんどの人は目の前の生活でいっぱい、いっぱいになっている。

「海外で活動してきました!」って言っても、ふ〜ん、で?なに?だ。

海外での活動を活かせる仕事!活かせる進路!とこだわりすぎると職が見つからないことになってしまう。

海外をひきづらず、日本に帰ってきたらキャリアリセット!くらいに考えておいたほうがよいだろう。

落とし穴③どこへ進んでよいかわからなくなる

①が原因で、自分はなんでもできる!あれもこれもしてみたい!就職なんてしないで、自分でなにか新しいことをやってみたい!と思うようになる。

海外へ出るといろいろな価値観の人に出会う。

今まで会ったことのない人、自分とは正反対の考えを持っている人、自分の枠では計算できないくらいすごい人・・・。

ぼくが初めて一人で海外旅行をした時、隣に座った人は会社を10社運営する経営者だった。彼の話は大学生のぼくにはほとんど理解できなかったけど、今でもその衝撃は忘れない。

そんな人たちと交流していると自分の枠組みがどんどん外れていく。

これまで考えていた人生のレールなんてものはないんだってことに気づく。

選択肢が無限大になっていく。

帰国後、「何か大きなことをしたい!自分はできるんだ!」という漠然とした思いを抱くようになるが、実際のところ具体的には何したいのか分からない。

抽象的だし、自分の考えがまとまっていない、地に足が付いてないふわふわ人間だ。

進む方向が決まっていないで、とにかくふわーとしている。

人生はお金じゃない!お金より大事なことがある!なんて考えをもっている。

ふわふわした人が注意しなければならないのは、怪しい団体や怪しいビジネスからの勧誘だ。

行き先が見えていない人って、歩く方向が定まっていないから、周りからするとすぐにわかる。声をかけられやすし、時間はあるから、誘いにのってしまうことが多い。「時間があるし、話だけならいいか」って。忙しい人は断る理由があるけど、時間がある人は断る理由がない。

怪しい団体の方や怪しいビジネスをされている方は話がうまい。

ふわふわした人が好きな自己啓発的な言葉を並べるもんだから、興味をもってしまう。

行き先が決まってない人は、強い信念をもっている人に巻き込まれやすいってのもある。

誰かが示したレールに乗るのは簡単だし、楽だ。考えなくていいから。それで騙されてしまう人もけっこういるんだよな。

「世界平和がしたい!」「世界を変えたい!」「世界をよくしたい!」など、ふわっとした目標を言う人は要注意。自分がやりたいことを具体的な言葉に落とし込むまで考えるのが大事かな。

落とし穴④日本の社会に憤りを感じる

日本ほどシステムや決まりごとでがんじがらめな国はない。

ほとんどの国は日本ほどがんばっていないし、のびのび楽しそうに暮らしている人が多い。

海外で住むと、いい加減なシステムや、ゆっくりと流れる時間になれていく。

ぼくもマイペースにのびのびと暮らしている人々に憧れを抱くようになっていった。

そんなゆるーい国に慣れ、日本に帰ってくるとどうか。

満員電車に乗り込むと、死んだ目をした人たちがぎゅうぎゅうづめになっている。

夜遅くまで仕事、仕事、仕事・・・家族と会話する時間すらもてない。

お金、お金、お金に狂ったビジネスマンたちが東京の街を走り回っている。

そんな社会を見て吐き気を覚えてしまう。

なんだこの国?なんか間違ってないか、って。

そして海外の国を美化し、日本を批判するようになり、心の中は悶々としていく。

日本を批判し、社会を批判し、敵ばかり作っていく。危険信号。

落とし穴⑤海外の話ばかりに

これは帰ってきたばかりに、最初に落ちる落とし穴。

日本に帰ってきて、友人に再開すると、海外での興奮を怒涛のように話してしまう。

聞かなくても永遠と自分の海外話ばかりしてしまう、というか今の日本の時事問題やニュースの話題にはついていけない。

自分にとっては面白いことでも、正直海外に興味を持つ人ってほとんどいない。

わけも分からない国の話は聞きたくないし、たくさんの写真をどんどん見せられても疲れるだけだ。

結果、その場は変な空気になり、浮いてしまうことになる。

海外の話をするなら、聞かれたとき。話すなら、シンプルで、わかりやすく、面白い話だね。

落とし穴⑥心にぽっかり空いた穴

これが最大の落とし穴。

正直、海外での活動は想像以上に刺激的だ。

毎日が新鮮で、色とりどりで、発狂するくらい楽しい毎日だ。

だからだろうか、日本に帰ってきたとき、日本の社会が灰色に見えてしまう。

心にどうやっても埋めることができない穴が、ぽっかり空いてしまうんだ。

ぼくはブータンから帰ってきたとき、写真展を開催した。

そのときに参加してくれた60歳くらいのおじさんが、こんなことを言ってきた

「若いうちにこんな経験をして、かわいそうに・・・」

大きなお世話だと思ったし、その時はピンとこなかったが、しばらくしてじわじわとその言葉の意味を理解することになる。

ぼくは帰国後小学校教師になったが、毎日が葛藤だった。

日本の小学校では、ブータンの学校ほど面白いこともなければ、刺激的なこともない。

ぼくにとってはのっぺりとした、平凡な日々が続いた。

このまま、60歳までここにいるんだろうか、なんてつまらない人生・・・と思っていた。

ブータンのときはあれだけ輝いていたのに、なんでいまこんなに満たされていないんだ。

昔は自分らしく生きることができていたのに。今の自分は自分ではない。

気がつけば、過去の自分と比較するようになっていた。

おじさんの言っていたことが、じわじわと理解できてきたのだ。

ぽっかり空いた穴は、小学校教師をする自分ではどうしても埋めることができなかったので、ぼくは退職することにしたんだ。

いろいろな落とし穴を紹介してきたが、この心に空いた深い穴を埋めるのが一番難しいし、

多くの海外経験者はこれを何かで埋めようと必死になっているように見えた。

6つの落とし穴を紹介してきた。

後半は、穴に落ちない為、もしくは這い上がる為の対処法を書いてみた。

対処法①海外へ出かける前に、帰国後何をするか決めておく

以外にも将来のことを何も考えないで旅へ出てしまう人がほとんどだ。

こんな人は帰ってきたとき、必ずあとで苦しむ、悩むことになる。

理想は海外へ出る前に帰ってきたら何をするかを決めておくこと。

出る前に決まらなくても、帰ってくるまでに決めておくことが望ましい。

ぼくの友人で行く前から進路を決めていた人は、帰ってきたあとほとんど悩まずに日本の社会に馴染めていたもんな。

まあ、海外に出ると自分の価値観は日々変わってしまうもんだけどね。

決まっていたけど、やっぱり違ったって人も多い。

ただ、価値観の変容に伴って、その都度将来の道も考えておいたほうがいい。

日本に帰国して、さあどうしよう、では手遅れだ。

対処法②論破される

ふわふわして帰国してしまったら、誰かに論破してもらおう。

中学校の友人、高校の友人、大学友人、昔の職場の友人、先輩・・・誰でもいい、

はっきり物事を言ってくれる人と会い、自分のあまい考えをずばっと切ってもらう。

指摘してもらう。

高くなった鼻をへし折ってもらう。

初心に帰ってアドバイスをもらう。

これは荒治療だが、かなり効果的。

ふわふわしてた考えが、より現実的になっていく。

目覚ましになるだろう。

対処法③自分の「分からない」と何度も向き合う

海外から帰ってきて、何をやるか分からない人は、とにかく自分と向き合おう。

分からない自分が怖い、分からないなんて認めたくない、分からないのは気持ち悪い、と逃げたくなってしまう人もいるかと思う。

実際ぼくは何度も逃げ出した。youtubeに逃げ、漫画に逃げ、飲み会に逃げ、山登りに逃げ・・・。

人って考えたり、向き合うことが嫌いなんだと思う。

分からないってのは辛いからね。

だけど「分からない」はすぐ横に置いてあるだけで、ずっと付いて回ることだし、そこから逃げ続けたら一生自分が納得する道は見つけることができない。

時間がかかるし、苦しいことだけど、自分の「分からない」ととことん向き合ってほしい。

それが自分らしい道を見つける1番の近道だと思う。

対処法④(仮)でとにかく行動

ぼくの経験上、進む道が決まらずに迷い、その場で立ち止まっている状態が一番辛い。

周りの目を気にしすぎて、ブレることを恐るがために、自分の道がきちんと決まるまで行動できない人ってけっこういる。

ぼくはとにかく、止まることが苦しかったから、その時一番やってみたいことを一つ一つやってみることにした。

それが将来へ繋がることなのか分からなかったけど。

それをやりながら次どうしようか考えた。その延長に今がある。

今もそうだ。

だから人生(仮)でいいと思っている。

よく企画書のタイトルを見ると(仮)って書いてあることがある。

タイトルはまだ決まっていないけど、今のところこれです、って意味。

今やってみたいことをやってみて、また考えが変わったらタイトルを書き換える。で、また(仮)を付けたらいい。

そしたら行動の一歩がかなり低くなるし、小さくても積み重ねることができる。

それがいつのまにか実績になるし、自分の道ができていくんじゃないかな。

ぼくは写真家という職業を選んだけど、その道の先輩に話を聞いたり、たくさんの写真家コミュニティーに行って情報を集めた。

どうしたら食っていけるか多くの写真家の方に聞いて見た。

そこで得た知識で、いいなと思ったことは全部やってみた。

一歩一歩積み重ねる、これに尽きると思う。

対処法⑤時間が解決

なんだかんだで、心にぽっかり空いた穴は時間が解決してくれる。

日本に帰ってきてたくさんの人と接し、たくさんの仕事をこなし、たくさんのことを考えていると、いつのまにか海外と日本のギャップがなくなっていることに気づく。

日本はとってもいいところじゃないか、日本でも生き方次第で自分らしくいられるじゃないかって。

今という時を一生懸命に生きれるようになっている。

長々と書いてしまいましたが、海外ボランティアや海外旅行から帰国後、ハマってしまう落とし穴は数多くある。

中には何年も悩んだり、くすぶってしまう人もいるだろう。

それでもぼくは海外で挑戦してよかったな!と心から思っている。人生の宝だね。

人には理解できない苦しみがあったとしても、それと同じくらいの経験と学びがある。 だからぜひ海外に挑戦してほしい。

帰ってきたとき、もし悩みがあれば、連絡ください。よかったら、相談にのりますよ〜!

以上

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今後のイベント

APAアワード2017展覧会

場所:東京都写真美術館 地下1階展示室

日時:2017年3月4日(土)~3月19日(日)

10:00~18:00 (予定)月曜休館

ブータン王国 幸せの秘訣

関健作講演会

日時:3月11日(土曜日)午後2時00分~(午後1時30分開場)

場所:寄居町中央公民館

詳しくはこちら:

関健作×山本高樹 トークイベント

「僕たちはブータンとラダックで、撮って、書いて、生きてきた。」

日時:3月25日(土)14:30〜16:30(14:00開場)

会場:モンベル 御徒町店 4F サロン

主催:GNHトラベル&サービス

詳しくはこちらから:

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