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絶えない火

Japan

 

 

3月中旬、工場の中は額に汗がふきだす暑さだった。ぼくがファインダー越しに見ていたのは、硝子と向き合う一人の職人の手だ。短時間の間にドロドロに溶けた赤い硝子を美しい形に変える。塚本衛さん、69歳。彼の手が作り出す造形美と、無駄のない動き、そして彼の生き様に惹かれ、2日間密着取材をさせてもらった。

 千葉県九十九里町にある菅原工芸硝子の工場。建物の中心に鎮座する溶解炉は1年を通して火を絶やさない。内部は約1400度に熱せられ、釜の中を覗くと赤く溶けた硝子を見ることができる。工場で働く職人さんたちは溶解炉から素早く硝子を取り出し、みるみるうちに形へと変えていく。ひときわ存在感があるのが最年長の職人、塚本衛さんだった。

塚本さんは15歳でこの道を歩みはじめ、54年間、硝子と対話し続けてきた。はじめはただの仕事として作業をしていたが、年を重ね30歳を超えたごろから硝子工芸の面白さにのめり込んでいったそうだ。硝子に触れていないと落ち着かないという塚本さんは、休日工場に足を運んでしまうという。仕事のキャリアを進めていく中で、おそらく多くの人はどこかで「慣れ」だったり、「飽き」だったり、そういった気持ちが芽生えてくるものと思うのだが、彼からはそれらを一切感じない。

 工場内は、溶解炉の熱で常に真夏のような環境下。そこで1日中、作業し続けるというのは69歳にとって、一見過酷そうに見える。しかし硝子に触れ始めると、彼の瞳は生き生きと輝きを放つ。まるで新しいおもちゃを買ってもらった子供のように。そして、彼の手も作業を始めると一変する。溶解炉から溶けた硝子をちょうどいい大きさにすくい上げる。竿に巻きつけ硝子に息を吹き込み、器のかたちを形成していく。竿についた硝子をぐるぐると回しながら形を整えていく。すべての作業は、硝子が柔らかく熱いうちに行わなければならないため、短期間に終わらせなければならない。手の甲から腕にかけて引き締まった筋と太い血管が浮かび上がる。ところどころに火傷の後が見られ、分厚く大きい手の平が作り出す形状は、まるで地獄の炎に照らされた鬼の手のような迫力がある。しかしその動きは繊細で、美しいダンスをするかのように無駄がなく洗練されていた。

「硝子は仕事であり、遊びでもある。自分にとって宝のようなものだ。これだけやってもまだわからないことがある。だから楽しい」

こんなにも言葉と行動が一致する人をぼくはみたことがない。彼の存在そのものが一瞬一瞬の物語を紡ぎだしている。こんな仕事人なりたい。彼の姿勢を見ているとそんな想いがふと浮かび上がってきた。

「体が動くかぎりずっと硝子に触れていたい」塚本さんの硝子に対する情熱は溶解炉のように熱い。そして365日絶えることはない。

絶えない火
ニコンフォトプロムナード 2019
@ニコン銀座サロン

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