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狭間の村のとこしえ

Bhutan

プブさんは、92歳のおじいさんだ。ヒマラヤ山脈の乾いた風によって形づくられた深いしわ、長く伸びた白いひげ、頭にはいつも年季の入ったベージュ色のハットをかぶっている。村いちばんの長老でありながら、当時現役バリバリの〝カウボーイ〟。働き者で偉ぶらない姿勢は、村人から愛され、尊敬され、信頼を集めている。

  ブータン唯一の国際空港があるパロと首都ティンプーのちょうど狭間に、プブさんが暮らすイスナ村がある。のどかな山間地で、村には土と木で作られたブータンの伝統建築が立ち並び、人々は牛やニワトリ、犬や猫とのんびり暮らしている。

  いつ訪れてもプブさんはそこにいて、毎日ルーチン(牛の世話)をこなしている。その姿は、わたしが村を初めて訪れた2007年から変わっていない。しかし、村を取り巻く環境や雰囲気はずいぶんと変わった。ここ数年は劇的といってもいい。それは、この〝 狭間の村 〟の 宿命なのかもしれない― ― 。イスナ村から車で約40分のところにあるティンプーは、ここ数年、建設ラッシュに沸いている。国じゅうから豊かな生活を求める人々が押し寄せているのだ。インターネットが普及し、SNSが身近になったことで、遠くの世界が目の前に映り込む、そんな時代。都市生活が 手に取るようにわかり、多くの人々が夢と憧れを抱いて都会へ向かう。

 ブータンの時間の流れは日々早くなっているが、プブさんを取り巻く時間の流れは、ただただゆったりとしている。今という一瞬をじっくり味わっているようだった。不思議と風が匂いたち、木々の緑が語りかけてくるような気分になってくる。どれほど時代が変わろうと、自分の役割を果たし、自分の時間を生きること。そこに幸せというものの根っこがあるように思えてならない。

 

 

 

APA2017展
@東京都写真美術館

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